建築よりジャズやんか『ミース・ファン・デル・ローエ』


建築家ミース・ファン・デル・ローエのドキュメンタリーなのだが、彼はそれほど登場せず、肉声はほとんど聞くことが出来ない。何が聞けるのか。ramachandra borcar の音楽である。
この音楽、彼のオリジナルスコアのジャズに酔いしれて、というよりかはあまりにも良すぎて混乱しているうちに、アートにラリった編集が噛んだ軽妙洒脱で緻密なミースのガラスボックスに心を引き裂かれるドキュメンタリーになってしまっている。彼の有名な言葉、「less is more.」がほとんど語られることなく進み、ヤバいガソリンスタンドや、ヤバいガラスのビルが編集や撮影チームの腕により、めちゃくちゃにアーティスティックに映し出され、ああこれはヤバい…と思っているうちに、60分に満たないこのドキュメンタリーは終わる。そして、音楽はあまりにもマッチしている。もはやミースの名とビデオを借りたアートビデオであり、これの合間に所縁のある人物や評論家のインタビューがあり、ミースの建造物で働く人々の「建築には門外漢だが機能的だ」というアピールがある。ミースの理念は彼らを通してしか知ることが出来ないが、彼の建物の「良さ」や「美しさ」はこのドキュメンタリーを通して知ることが出来る。自身を芸術家だとは言わなかったミースに対して、彼は芸術家だと定義付けるドキュメンタリーなのである。